当院の治療特色【2】骨・関節感染症

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田村 裕昭
【執 筆】田村 裕昭
かわしまクリニック 所長、[大分大学医学部臨床教授]
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はじめに

整形外科領域における感染症としては、まず骨髄炎が上げられます。
当院は骨髄炎治療の専門病院として、日本各地から多くの患者様が紹介されて来院されています。
骨髄炎とは、骨に細菌が感染して、創部から膿が排出し治療は長期化し、患者様は精神的・経済的にも苦しむことの多い難治の疾患です。
原因としては、開放骨折などの外傷後や骨折の手術後の感染、あるいは別の部位の細菌が血液の流れに乗って骨に到達して発症する血行性感染などです。
外科的治療の第一選択は持続洗浄療法ですが、当院理事長考案の川嶌式持続洗浄チューブは国内に広く普及し、日本整形外科学会の医師の研修ビデオにも当院の手術が紹介されています。
当院では更に、高気圧酸素治療を手術前後に行うことで治療効果をより高めています。1981年の開院以来2017年12月までで延792例の骨髄炎を治療しており、良好な治療結果が得られています

化膿性骨髄炎とは

化膿性骨髄炎とは、骨髄を中心に骨皮質や骨膜にも細菌が感染して起こる炎症です。
一時抗菌薬の発達や外傷初期治療の徹底により発症頻度は減少してきましたが、近年では高齢者の増加や糖尿病や肝・腎疾患などの感染に対する抵抗性の弱い方々の増加もあり、発症は増加傾向にあり治療も難しくなっているのが現状です。
抗菌薬の効きにくいメチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などの新たな難治性の感染症も増加しています。特に近年、MRSAは常在菌化し、検出された黄色ブドウ菌中の70~80%を占めると報告されています。
化膿性骨髄炎にはいろんな病態がありますが、ここでは急性骨髄炎と、慢性骨髄炎に分けて説明します

急性骨髄炎

病態

他の部位から血液の流れによって運ばれる血行性骨髄炎と、外傷時に汚染され発症する外傷性骨髄炎があります。
急性血行性骨髄炎は、小児に圧倒的に多く(70~90%)、長管骨の骨幹端部(特に大腿骨と脛骨)に発症することが多く、成人では、脊椎及び骨幹部での発症が多くなっています。外傷性では、大部分が成人に発症し、脛骨や大腿骨など下肢に発症する場合が多く、他に手指骨、前腕骨、上腕骨などにも発症します。
小児での長官骨の骨端部では血流が豊富であり、骨髄内の動脈血は骨端部の静脈洞を経て静脈系へ移行しますが、静脈洞での血流が緩やかであるため、栄養動脈から骨端に達した細菌がそこで増殖しやすく、細菌が増殖すると白血球が集積し、死滅した白血球により膿瘍が形成され骨髄の内圧が上昇して強い疼痛が発生します。さらに進展すれば、膿が骨内から骨膜下に達し骨膜下膿瘍を形成します。骨髄内圧が亢進して骨の栄養動脈が閉塞すれば、骨が部分壊死して慢性骨髄炎へと移行します。成人では骨膜下膿瘍になることは少なく、膿が骨髄内にとどまり慢性化していきます。
急性外傷性骨髄炎は、開放骨折などで汚染や軟部組織の挫滅が強く十分な初期治療ができなかった場合や、術中の感染などで発症します。

臨床症状

乳幼児では、初期では機嫌が悪くなり、患肢を動かさなくなり、他動的に動かそうとすると疼痛のため健側と比べて動きが低下しているのが認められます。進行すれば、発赤、熱感、腫脹、疼痛などの定型的な炎症症状を呈するようになります。下肢に発症した場合は、歩行が困難になります。成人では、全身症状を欠くことが多く、局所の疼痛が主症状となります。

診断
画像検査

初期の骨所見としては、骨髄の萎縮像やもうろう化が現れ、ついで骨膜反応や骨溶解が認められるようになります(図1)。X線像での骨変化は発症後1~2週で現れることが多く、小児では疼痛の訴えが先行し、初診時には骨変化が見られず遅れて骨変化が出現しますので、上記のような症状が続く場合は、骨髄炎を疑ってX線を数回チェックする必要があり、MRIでの精査も必要になります。MRIは、発症初期から軟部組織の炎症性の腫脹や骨髄内変化を捉えますので、骨髄炎の早期診断に非常に有用です(図2)。
成人の場合には初期骨病変が示されるのは遅く、骨膜反応が現れることも少ないので骨萎縮像や不規則な骨硬化像が主体となります。

血液検査

白血球数の増加、炎症反応であるCRPや赤沈値の亢進が認められ、急性期は局所の臨床所見や血液炎症所見が診断的に重要です。CRPや赤沈は炎症の変化の判定に重要ですので、急性期は頻回に検査します。

細菌検査

排出された膿や骨膜下穿刺で得られた膿を培養し、起炎菌の同定と薬剤感受性を検査します。血行性感染では黄色ブドウ球菌が最も多く検出されます。必要に応じて、嫌気性菌、結核菌などの培養を行い、全身症状の重篤な場合は動脈血培養を行います。

治療
保存療法

良肢位でのシーネ固定、牽引などで局所を安静にし、患部冷却や患肢高挙を行います。骨髄炎が疑われたら、抗菌薬の点滴をできるだけ早期に開始します。細菌培養で原因の菌や抗菌薬の感受性が明らかになれば、殺菌性の選択毒性の強い抗菌薬を選択して使用します。的確に治療されれば、血行性骨髄炎は手術しなくても多くは治癒します。

手術療法

明らか膿瘍形成が疑われる場合は、膿瘍切開あるいは骨皮質を開窓し、患部を十分に洗浄し、膿の排出を促す目的で廃液チューブを留置します。範囲が広い場合や、慢性化が危惧される場合は持続洗浄チューブを留置して持続洗浄療法(後記)を行います。

慢性骨髄炎

病態

骨関節の感染症では、慢性化すると骨や軟骨は壊死に陥りやく、壊死が起こると細菌はさらに増殖し、病巣部の血流低下による低酸素状態もあって、白血球の働きなどの生体の持つ自己防衛能が及びがたくなり、抗菌薬の到達も不十分となり、さらなる炎症の再燃を起こす悪循環となり、治療に難渋することになります。
近年の慢性骨髄炎の多くは、外傷性骨髄炎が慢性化したものですが、骨癒合せずに感染した場合を感染性偽関節とよび、感染と骨接合の両方の治療が必要となり、さらに治療が難しくなります。

臨床症状

慢性骨髄炎では、疼痛以外の炎症所見は少なく、慢性に軽度から中等度の疼痛が続く場合が多く、骨内から膿が流出する廔孔を形成します。廔孔周囲が盛り上がったり、骨が露出していることもあります。慢性骨髄炎では、疼痛も少なく、発熱もあっても微熱程度ですが、延々と排膿が続き創処置の継続が必要となります(図3)。廔孔が何年も長期化すると、扁平上皮癌に移行する場合もありますので注意が必要です。

診断
画像検査

X線;慢性化膿性骨髄炎で治療が繰り返された症例では、骨皮質の肥厚、不規則な骨硬化像、骨髄骨梁の消失、骨髄腔の閉鎖、骨萎縮、空洞、腐骨などが混在し、病状の経過や症例に応じて多彩なX線像がみられます。
廔孔造影は廔孔に造影剤を注入した後X線撮影する方法で、病巣の広がりを確認できます。
MRIは、より詳細に炎症の範囲や程度が確認できます(図3)。

血液検査

慢性骨髄炎では、CRPや赤沈の亢進、白血球増加などの所見はあっても軽度である。廔孔から排膿していると、全く異常を示さないことも少なくありません。

最近検査

膿を培養し起炎菌を同定するが、抗菌薬が投与されていると検出されないことがあります。最近ではMRSAが検出されることが多くなっています。

治療
保存療法

感受性のある抗菌薬の内服あるいは点滴、創管理、廔孔洗浄などを行いますが、時期を見て手術が必要となります。当院では高気圧治療装置を利用し、手術の前後に高気圧酸素治療を行います。
高気圧酸素治療:2気圧に加圧した中で純酸素を吸入すると、体内の酸素分圧が正常の15~20倍に上昇します。低酸素状態に陥った骨や軟部組織に高濃度の酸素を供給すると、白血球の殺菌作用の亢進、組織修復の促進、抗菌薬の効果増強などの効果で感染に有効に作用することが国際的にも明らかになっています。骨髄炎の発症後や、慢性期の治癒促進目的で1日1回20~30回を1クールとし、治療効果を確認しながら継続しています。

骨髄炎治療実績グラフ
手術療法

閉鎖式持続洗浄療法:最も一般的に行われている手術方法で、骨髄内の不良な肉芽組織や壊死物、腐骨などの除去を徹底して行った後、当院の理事長である川嶌が考案した川嶌式持続洗浄チューブを留置します。このチューブは、3つの回路で流れる方向を変えることが可能で、閉塞防止にも役立っており、日本の多くの医療機関でも使用されています。洗浄液は、現在は生理食塩水やオゾンナノ水を利用して1日2000~3000mlで洗浄し、14日間前後行います。オゾンナノ水は、オゾンをナノバブル化し生理食塩水に溶存させたもので、長時間水中のオゾン濃度を維持することが可能で、すぐれた殺菌効果を有し、MRSAや多剤耐性緑膿菌にも有効です。

骨髄炎治療実績グラフ

おわりに

骨髄炎では、数十年経過しても再発することがあるので、完治したのではなく炎症が鎮静している状態にあるとの認識を持ち、定期的に経過観察する必要があります。
残念ながら、治療の手を尽くしてもすべてを完治に導くことは難しい場合もあります。なおいっそう研鑽を積んで、この病気に苦しんでおられる患者さんのお役にたてるよう職員一同努力していきたいと思っています。

症状・治療の一例

1.閉鎖式持続洗浄療法の一例 2.脛骨感染性偽関節(38歳男性)
閉鎖式持続洗浄療法の一例 写真 脛骨感染性偽関節(38歳男性) 写真
3.膝開放性化膿性関節炎(75歳女性) 4.持続洗浄療法と高気圧酸素治療の併用
膝開放性化膿性関節炎(75歳女性) 写真 持続洗浄療法と高気圧酸素治療の併用 写真